声優について
声優の方ってすごいと思います。声だけで、あんなにもご自分の魅力を発揮することができるのですから。やはり訓練の成果でしょうか。それとも才能。ともあれ、確かに声だけで、さまざまな人格を表現する技術はたいしたものです。
よく男の子の声って、女性がされているようですね。いくら子どもだからといっても、そこはやはり男性です。えっ、この声の主が女性だって、と後から気づいて驚かされたりもします。なかでもぼくの好きだったのは、ドラゴンボールの主人公、ゴクウの声。彼の声は、実は女性の声だったのですね。野沢雅子さんとおっしゃったでしょうか。あれは実に見事です。
何が見事かって、彼女はゴクウだけではなく、息子のゴハン、孫のゴテンの声まで担当していたのです。普通の人では、あの芸当はちょっとムリ。彼女は、ものの見事に違った年代の声を、違った人物として、しかも聞き手のぼくたちに、なんの不自然さをも感じさせずに出していたのです。アニメのストーリーもさるものながら、そんなところも、実は見どころ聞きどころと思ってあのアニメを見ておりました。
“声と笑い顔は隠せない”と言います。つまり、その人物のすべてが現れ、それは隠そうとしてもけっして隠すことのできないものだということです。でも、ぼくは思います。確かに、映像を通してその人物を見せられてはおります。しかし、その映像の人物にピッタリという声が、どうして出せるのでしょうか。ぼくには、それが不思議でならないのです。つまり、それがプロの声優という職業なのだろうと感心するばかりです。
さて、どのような職業も同じと言えば、そうなのだろと思いますが、その道で一人前になるのは大変です。ここで取り上げた声優の人たちというのは、サラリーマンの方々とちがって、仕事がなければ食べていけないのです。それが組織で動く人間と、個人技ともいうべき、技量だけで生きていく人間との違いかもしれません。ことに芸能界という世界で食べていく厳しさは、並大抵ではないようですよ。
ぼくはかつて、学生の時、サザエさんの舞台でエキストラのアルバイトをやったこがあります。ぼくの場合は、きっちりバイトでした。将来、芸能の世界で食べて行こうなんて夢は、それこそこれっぽっちもありませんでしたので、気楽なものでした。そもそもブ男なので、思ってもムリ。
でも、そこには、いわゆる役者の卵なる人物がいかに多かったことか。その中には、かつて仮面ライダーの中に入っていたなんて人物もいたりして、へぇ~と思ったりしたものでした。もちろん、ぼくたちエキストラの仲間の間では、その彼はスターでした。そんな大きな仕事をしていたなんて、ということで、その彼は一人前とされていたのです。実際、舞台でもテレビでも、セリフを貰うまでが大変なのだそうですよ。その点、ぼくたちエキストラなんていうのは、それこそ電柱的な存在に過ぎないのです。でも、そんな人たちが、いかにたくさんおられたことか。
さて、声優の話です。これは実際に聞いた話ですけど、今ではもう立派な声優として世間に名の知れた方、その方はかつては俳優を目指しておられたとか。しかしながら、なかなか芽が出ず、長い間ずっと下積み生活が続いたそうです。
いつまでたっても名が売れず、仕事はないは、年ばかりは取るはで、もうあきらめようと思っていたそうなのです。そんな時でした。彼に外国映画の吹き替えの仕事が舞い込んできたのです。外国映画の吹き替えは、それが映画館などの大きなスクリーンなら、横に日本語が出てくればそれでよかったので、最初はいらなかったのです。ですが、家庭にあるテレビでは、それはムリ。画面が小さいために邪魔になってしまうからだそうです。実際にそうかもしれません。
もうこの仕事は辞めようと思っていた矢先、そんなことで、人に勧められ、吹き替えの現場に行った彼。すでにそこには、幾人かの声優さんが集まっていたそうです。つまり、オーディションも兼ねていたわけですね。吹き替える相手は、世界的にも有名な映画俳優。それでも、俳優である彼にすれば、あまり乗る気はしなかったそうです。とりあえず終わって帰ろうとしたところ、監督に呼び止められ、後に残ったそうです。なんで俺だけ残されるのだろうと思っていたら、なんと、彼はその世界的有名な俳優の吹き替えを、監督から任されたのだそうです。
そこから、彼の声優としての活躍が始まったのだそうですよ。もともと俳優を目指していた彼。その彼の才能は、声優にこそあったというところでしょうか。なるほど、どのようなことでも夢をあきらめてはいけません。
でも、ぼくは思うのです。ぼくたちは、この現実に生きている人間なのだということを忘れてはなりません。生きるということからすれば、夢という荷物は大きなリスクでもあるのです。だからといって、夢なんか、さっさと捨てちまえというわけではありません。夢を持ち続け、それでなおかつこの現実と戦う。その決意のない人間には、夢も自ずから遠ざかってしまうだけでは、と思うのです。